プロアクを試してみたい
医師会と違って内科学会は学術団体なのだから、5つのMから考えれば、内科学会ももっと医師のあり方、行政とのかかわり、医療のあり方など社会的に意見をもっと出さなくてはいけない。
それをしない限りは行政がどんどん決めてしまうと。
でも何も動かない……。
ICH(日米欧医薬品規制ハーモナイゼーション国際会議)のインパクト限られた資源をどうやって配分するか。
それから、モレキュラー・バィオロジーによるリサーチ、さらにコンピュータ、つまりマイクロチップで世界中の情報が公開され、だれでもアクセスできる。
だから世界中の病院と医師のドッキングが可能な時代になったんです。
モラルももちろん重要な大前提です。
私はいまアメリカの内科学会(ACP)の会員ですから、ACPが売るアメリカの医療保険に入れるんです。
そうすると病気になったらアメリカの病院に入院することが可能です。
そういう時代に入っているのに、日本医師会は13万人の医師免許を持っている人のうち14万人しか入ってない開業医主体の集まり。
しかもお医者さんは、職業上1対1で「あなたはいかがしましょうか」と患者さんとの意思決定をするのが仕事で、お医者さん全体としてビジネスをすることはなかなか考えとしてもできない。
会社なら「この会社のためにどうしたらいいか」を統括する役員会とかいろいろありますが、そういう組織構造がつくれないんです。
医師会や行政にお任せするのではなく、医療全体を考える上での医師サイドの発言をもっともっとしなければいけないと思いますね。
◇Yでは、ここでICH(インターナショナル・コンファレンス・オン・ハーモナイゼーション)のガイドラインがもたらすインパクトについてお話しいただけますか。
◇KICHは1998年4月1日から.GCP一医薬品の臨床治験の実施に関する基準1997年に施行)に基づいてやると決まりましたが、難しいです。
医療機関、医療制度、医師と患者の関係の歴史的な背景や現状を考えると、やはり日本の従来型のシステムで考え動こうとする。
いろいろな問題がまだまだあります。
日本の製薬企業がICHをGCPでやれというのはムリな話です。
これでは日本の製薬企業は、何か新しいものを見つける研究部門と治験開発は外国でやってしまって、残るは営業だけになる。
日本の行政としてはそれでいいのかということを、はっきり政府は言ってほしいですね。
◇Y高齢化社会突入寸前で医療費が増えていく状況の中で、医療費の伸びを抑えるところに焦点が絞られて、政治的に弱者の医薬品業界がスケープゴートになりつつある。
もっと医薬品の優れたところを見てゆく必要がある。
◇K非常に短期的なものの見方しかしていない、そしてできない。
これは政治の責任です。
それでは政治家がリーダーシップを取れるかというと、政治の立案が日本のシステムではできないんです。
理由の1つは、経済的に自立独立したシンクタンクがあまりにもなさすぎること。
日本では、せいぜい2、3でしょうね。
アメリカにはいま400ぐらいあります。
◇Yしっかりしていますよね。
彼らはニュートラルな立場で、国益を考えて政策を提言するので、国民が多くの選択肢を持つことができる。
◇Kいろいろなシンクタンクが独立に政策をどんどん提言して、それを政治が審議して採用して、官僚に「やれ」と言えばいいんですが、そのメカニズムが日本にはない。
ICHだって何でも官僚に任せざるをえないんです。
「将来、日本の製薬企業は国際市場でどうするのか」ということになってくると思います。
だから、国として産業として「ぜひやろう」というのであればいいですが、腰が引けています。
日本の製薬企業はICHに基づいて治験を全部外国で行えるようになるわけです。
でも日本にその薬を持ってくるには、ブリッジング・スタディ(人種の特異性などを検討する臨床試験)にしろやらなければいけない。
日本でもハイクオリティの治験をやらないと大変だということを、政治家も官僚ももっと認識すべきです。
どうも危機感がないのではないかと思っているんです。
◇KアメリカだってCROが出てきてからまだせいぜい5年です。
Sf大学、Cl大学Sc校での「アクセス」みたいに、学術研究のために研究費を呼び込むような、高収益な治験を受け入れる組織体ができなければうまくいかないと思います。
それがないから、日本ではいくらCROができても治験が全然進まないんです。
◇Y「アクセス」方式の例のように、大学の付属病院をベースとしたCRO方式が日本にできるといいですね。
あの方式はSf大学とCl大学サンフランシスコ校の超一流の臨床治験の専門家だけでなく、両大学病院のベッドがあるわけですから。
◇Kいいですね。
ああいうのをつくらなければいけないと思っています。
ICHのインパクトはすごくあって、それに対応できるハイクオリティな、アメリカ、EU(欧州連合)に互換可能な治験をどうさせるか。
私たちはやる準備があるんですが、日本の場合は行政が「ぜひやってほしい」と言って行政主導型のシステムをつくってくれないとできないという。
困りますね。
護送船団方式、横並び意識と、仲間はずれの恐ろしさですね。
◇Y結局そうなってきますと、日本の企業は今後さらに海外に出ていきますよね。
出やすくなる。
それはまた反対に、外資の医薬品会社が日本に入ってきやすくなるということですね。
◇Kそうなります。
◇Y日本の医薬品会社はむしろ外に出ていくのにかなり体力を使いますから、ホームグラゥンドでの防衛と海外での拠点づくりの両面から非常に苦しい立場になりますね。
◇Nそうしたら、外資系がいい。
◇Kただ問題は、新しい薬ができたときにそれを日本の人が使えるかというと、ブリッジング・スタディにしてもそうですが、日本でハイクオリティの臨床研究ができないとダメなんです。
最終的にいちばん被害をこうむるのは日本国民です。
そこをもう少し政治も行政も考えてほしいと思います。
また、CRO(クリニカル・リサーチ・オーガナイゼーション治験を請け負う民間会社)はいったい何をするかというと、企業から開発治験を請け負うわけでしょう。
それで企業としては、まず第1に開発にかかわる人件費を含めたコストを削減できる。
もう1つは、CROが複数の企業の開発を受注することによって特定の企業色を薄めることができ、あくまでもニュートラル、中立であると見せることができる。
でも実際には治験するところは病院であり、大学です。
いくらCROは中立でも、企業から見て中立だというだけの話で、実際に治験をやる受け皿である医療機関にもう1つ医師、医療機関のシステムをつくらなければ絶対にうまくいかないと思います。
◇YICHの1つのインパクトとして、アメリカのCROはこれから日本に入ってきやすくなる。
◇Yそうしますと、日本において臨床研究ができる病院をかなり限定して選定し、質の高い臨床研究がそういったところでできるようにする必要が当然出てきますね。
◇K病院というか、臨床研究ですね。
私は個人的にはそのようなシステムは十分考えています。
「やれ」と言われればいつでもできます。
でもいまの日本には独立でできる環境ができていない。
怖いのは行政、業界、そして同業者たちのリアクションです。
